宮島でのシカへの餌やりが違法化へ

2022年4月1日より改正自然公園法が施行され、宮島を含む国立公園特別地域などで野生動物に餌を与えることが違法となりました。


 宮島では宮島地域シカ保護管理計画・ガイドラインによって10年以上前からシカへの餌やりが禁止されてきました。しかし、それを無視して継続的に大量の餌を与える人たちがいて、不適切な餌やゴミの誤食などでシカの健康に悪影響が出たり過度な人馴れが起きることで様々な問題が発生しています。

 その方々は「餌やり禁止はお願いレベルなので違法ではない」との理屈で餌やりを続けていましたが、このたび国立公園などでの決まりを定めた自然公園法が改正され、公園の利用に影響を及ぼすような餌やりが“違法化”されることになりました。

■どんなことが変わったのか?

 細かな改正内容は環境省HPの令和3年に改正された自然公園法に関する情報にあります。
 今回の改正は、今まで国や都道府県がしていた国立公園の管理を「もっと地元が主役になってしよう!保護だけじゃなくてその価値を使って利用を増やそう!」という目的で行われました。それによって今までものすごく厳しかった自然公園の利用を地元の団体や自治体が簡単にできるようにし、利用が進むことによって起こるであろう問題をあらかじめ分かりやすく明示して規制することになりました。
 その規制の一つが”野生動物へのエサやり違法化・厳罰化”です。

■どんなことが違法になったのか?

 エサやりと言っても、宮島で行われているような定期的に大量にエサを投棄するものから観光客が気まぐれにあげるもの、捨てた食べ物が知らないうちにエサになっていたようなものまで色々とあります。今回の法改正ではそれも詳しく決められることになりました。
 改正自然公園法の「利用のための規制」の項目に次のような条文が新しく加わりました。

野生動物(鳥類又は哺乳類に属するものに限る。以下この号(新設) において同じ。)に餌を与えることその他の野生動物の生態に 影響を及ぼす行為で政令で定めるものであつて、当該国立公園 又は国定公園の利用に支障を及ぼすおそれのあるものを行うこ と。
 


  簡単に言えば、"野生動物の生態を変え、自然公園の利用に支障が出るようなエサやり”を禁止したわけです。

 ただ、これだけだと漠然としすぎていてどこまで規制していいのか分かりにくいですね。

■禁止される餌やりとは

 法律などで色々と決め事をするときには、法律の本文ではおおまかなことを決め、細かい部分や具体的な内容は「規則」や「要綱」で決めるようになっています。
 改正自然公園法では”国立公園における利用のための規制取扱要領(pdf注意)”で具体的な内容が定められています。
 取扱要領では禁止される餌やりについて以下のように書かれています。
「餌を与えること」とは、野生動物の餌となる食物、ごみ、自然物等を与え、又は 放置することが該当する。食物等を与え、又は放置した時点において野生動物を目視 等により確認できていない場合であっても、野生動物に餌を与える意図を持っている 場合は規制対象となり得る。また、過失など、故意に行われたものでない行為は刑法 (明治 40 年法律第 45 号)第 38 条により罰則の対象とはならないが、当該地域におけ る野生動物の生息状況や過去の事例、科学的知見等から、野生動物の餌となることが 十分予測し得る場合など(いわゆる「未必の故意」があったと認められる場合)につ いても、同様に規制対象となり得ると解される。一方、餌付けのための餌を販売する 行為については、本規制の対象とはならない。
 つまり、野生動物にあげる目的で餌を撒いたらダメということです。

 ただし、餌を与える行為のうち「公園の利用に支障を及ぼすおそれのあるもの」を禁止することになっています。一体どんな状況が公園の利用に支障を及ぼすおそれのあるものなのでしょうか。それも要領に明記されています。
「国立公園又は国定公園の利用に支障を及ぼすおそれ」については、当該地域にお ける野生動物の生息状況や生態、公園利用状況の特性、その行為の目的や態様(悪質 性、反復性)、過去の事例等を踏まえつつ、科学的知見等により判断される。具体的に は、野生動物の人に対する警戒心が低下することによって、野生動物による人や所有 物への被害、歩行通行の支障や公園利用に係る施設の閉鎖等、利用自体が困難となる ことによる公園利用上の支障のおそれが想定される。
 これによると、餌やりによって人への警戒心を緩ませ、人や所有物に被害が出たり、公園内の歩行や利用に影響が出ることが想定されることされています。

■宮島での餌の投棄は対象となり得るのか?

 今までの点を踏まえて宮島での餌の投棄はどうなのか、見てみましょう。

・餌を与える目的で投棄しているか

→言うまでもありません。BlogやSNSで「シカへの餌やり」と明言して行われています。

・餌やりによって人への警戒心が緩んでいるか

→これも言うまでもありません。宮島では餌やりにより本州では見られないほど人への警戒心がなくなって平然と人の生活圏に進出しています。特に餌の投棄が日常的に行われている場所ではその傾向が顕著です。

・人や所有物に被害を及ぼす可能性があるか

 宮島地域シカ保護管理計画(第2期改定)(pdf) に餌やりによる影響が明記されています。
P12〜「餌付けに起因する問題点」から、餌やりによって人馴れしたシカによる咬傷事故、交通事故の発生、角のある雄シカによる危険、アレルギーによる健康被害などの諸問題が餌やりによりすでに発生しているとされています。


・公園内での歩行や利用に影響が出る可能性があるか

 同じく宮島地域シカ保護管理計画の「餌付けに起因する問題点」内に、公園内での糞尿による利用制限などの問題が起きていることが明記されています。
 宮島にお越しになられた方はご存知だと思いますが、参道や公園などはシカの糞を踏まずに歩くのが困難な状況です。

■餌やりなんて観光客も含め色んな人がやっているから罰金を取るほど厳しいことはしないのでは?

 確かに、現実として大量の餌の投棄をしている団体の他にも大なり小なり餌やりをしている例はあるようです。しかし、今回の要領にはこのような文言もあります。
刑罰法令の対象となる反道徳行為のうち、比較的反社会性の少ないものは軽犯罪法 により軽微な刑罰が科せられているが、国立公園等は、国民の保健、休養、教化という 重要な使命を負う地域であり、優れた自然の風景を媒介としてその目的が達成される ものであるから、特別の考慮を要する。このため、特別地域等においては、軽易な反道 徳行為といえども禁止行為とされ、かつ、軽犯罪法以上の強い刑罰が適用される。
 かなり厳しい文言でちょっとした行為でも禁止であり、罰則も厳しいと書かれています。法令でここまで厳しい文言はあまり見たことがありません。それだけ国立公園の価値を重く見ているのです。

 以上より、宮島で行われている餌の投棄は改正自然公園法に違反する可能性が極めて高いことがわかります。
 まだ改正されたばかりで違反を取り締まる現場の仕組みが整っておらず、当初念頭に置かれていた知床でのクマへの餌付けに対しても実際に検挙された事例はまだ無いようです(2022年5月現在)。

 国・県には世界的にも貴重な宮島の環境や国立公園としての価値を守るため、早期に運用を始めていただきたいです。そのためにも、現在行われている餌の投棄の情報を集め、関係機関との協力と情報提供を引き続き継続していきます。

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