違反給餌が引き起こす問題




違反給餌はどのような問題を引き起こすのでしょうか?
大きく2つ、「鹿に与える問題」「環境に与える問題」があります。

違反給餌が鹿に与える問題

■鹿が山に帰らなくなる

一番大きな問題は、鹿が山に戻らないことです。
鹿にとって栄養価が高すぎ刺激の多い餌を市街地周辺で投棄するので、餌付けされた鹿が山に帰らなくなっています。
宮島の鹿をめぐる問題は市街地に多くの鹿が出てくることが主な原因となっています。
そのため廿日市市は餌やり禁止を始めとした色々な施策で鹿を山に返そうとしていますが、無秩序無計画な餌の投棄によって、その効果が半減することになっています。
このままでは、鹿と人をめぐる問題は解決することができません。


■ビニールなどの誤食による健康被害

人から餌をもらう事で人の食べ物の味や匂いを覚え、食べ物が入っていたゴミを食べるようになってしまいます。
もちろん鹿はビニールを消化できません。食べられたビニールは胃の中に溜まっていき、やがて栄養を十分に吸収できなくなり死んでしまいます。
宮島の市街地には、腹が不自然に膨らんだ鹿が多く見られます。誤食によって多くの鹿のお腹の中にビニールが溜まってしまっているのです。
この写真は死んだ鹿のお腹から出てきたビニールの塊です。数kgの塊が出てくることも珍しくありません。


■病気が広がるリスク

鹿が餌をやる場所に集まることで、病気が広がるリスクが大きくなります。
例えば宮島の鹿にも必ず付いている「ダニ」は疥癬、E型肝炎、ライム病、そして人では致死率が30%にもなるSFTSなどいろいろな病気を持っています。
鹿が特定の場所に集まることで、ダニは他の鹿に移動しやすくなり、病気が鹿の間で広がりやすくなります。
また、市街地に出てくる鹿が多ければ観光客にダニがついてしまう可能性も高くなります。
その他にも感染性の病気であれば、鹿が集まれば集まるほど病気が広がる危険性は高くなっていきます。



■鹿にとって良くない餌をあげているので病気や栄養不足の原因になっている

餌を与えているのは鹿の専門家ではない一般の人です。

そのため、知ってか知らずか鹿にとって良くない餌を与えています。
米ぬかや家畜飼料(圧ぺんトウモロコシなど)は、本来草や木など栄養の少ない食べ物を食べているにとって栄養価が高すぎます。
鹿が食べると胃の中の微生物の調子が悪くなり下痢をしたり栄養が偏ったりしてしまいます。宮島では骨折した鹿がたまに見られますが、交通事故ではなく栄養の偏りが原因だと見られています。
栄養価が高く味が濃いので鹿が飛んでくるように集まって来ますが、子どもに甘いお菓子をあげ続けているようなものです。
キャベツなどの人が食べる野菜は「硝酸塩」の濃度が高く、これを鹿などの反芻動物が食べすぎると胃の中で「亜硝酸塩」と呼ばれる毒に変化し、場合によっては死んでしまいます。
これは鹿を毒殺するための薬剤として使われたこともある反芻動物にとっての猛毒です。
外国産の牧草(チモシーなど)は一見すると鹿に適切な餌に思えます。しかし近年アメリカでは「狂鹿病(CWD)」と呼ばれる病気が大きな問題となっています。牧草に付いた唾液や血液を通して感染が広がっていて、獣医師会や英衛生局は「輸入された牧草から感染する可能性は低いが、万一持ち込まれた場合は非常に大きな問題となるためリスクは無視できない」との見解を出しています。
可能性は非常に低いですが、宮島で狂鹿病が発生した場合に鹿がどうなってしまうかを考えれば絶対に避けるべき行為です。
パン・ゆでたまご・・・普通に考えて鹿にとって良い食べ物だと思いますか・・・?
なお、奈良の鹿愛護会様のHPでも人間の食べ物や野菜は与えてはいけないと明記されています。
参考:奈良公園の現状と課題(奈良の鹿愛護会様)



■鹿の頭数増加

仮に与える餌が問題なくても、餌を与えられて栄養状態が良くなれば繁殖率が良くなります。
鹿は条件が良ければ1年で頭数が20%増えると言われています。
600頭の鹿が順調に増えてしまえば1年に120頭も増えていく計算です。
今は保護されている鹿ですが、増えすぎてしまえば駆除される可能性は十分あります。
また、餌場に鹿が集まることは繁殖のチャンスを増やすことにもなり、群れが餌場から移動しなくなることで近親交配のリスクも増えてしまいます。

違反給餌が環境に与える問題

■世界遺産の原始林に悪影響が出る

鹿と森林はお互いに利用しあう関係ですが、餌やりで個体数が増えたり特定の場所の鹿密度が極端に高くなってしまうと森林の回復能力を超えてダメージを受けてしまい、木が枯れてしまったり鹿があまり食べない木ばかりの森林になってしまったりします。
宮島の森林は「弥山原始林」と呼ばれ、世界遺産の一部として認められたとても貴重なものです。
森林が鹿に食べられすぎてその希少性が失われてしまうと、宮島が世界遺産としての価値を失ってしまう可能性もあります。
また、森林の持っている地滑りや土石流などを防ぐ能力が鹿に森林が食べられることで失われ、過去にもあったような大きな土砂災害に繋がる可能性もあります。


■外来植物、微生物、虫、病気が侵入する原因になる

違反給餌には、よく島外から集められたドングリが使われます。
宮島にない種類の種(どんぐり)が蒔かれ、食べ残されたどんぐりが発芽し定着してしまうと、貴重な宮島の植生に影響を与える非常に問題のある行為です。
そもそも鹿はどんぐりをほとんど食べません。宮島でばら蒔かれたどんぐりはの大半が食べられずゴミになっています。
大量に食べ残されている牧草にも、もちろん種がたくさん付いています。
なお、宮島の弥山原始林は「特別鳥獣保護区」に指定されていて種(どんぐり)を蒔く行為は禁止されて、違反した人には罰則があります。
また、どんぐりにはたくさんのバクテリアや微生物、虫が付いています。。
宮島の外から持ち込まれ、本来宮島になかったものが広がった場合、生態系に大きな影響を与える事になります。


■悪臭の発生

違反給餌で投棄されるものの多くが食べ残され1~2週間以上も残っています。
残った米ぬかや野菜クズ、パンにはカビが生え悪臭を発生させています。
そして投棄をする方は掃除をしないので島民が片付けることとなっています。
これが毎週繰り返されています。島に住む方にとってどれほど迷惑かは想像に難くありません。


■有害鳥獣が増えたり街に集まる原因になる

投棄された餌を食べるのは鹿だけではありません。
違反投棄がされた所にはイノシシやカラスなどの有害鳥獣もたくさん集まってきます。
特にここ数年ではイノシシが増え大きな問題になっています。
宮島は全域が鳥獣保護区なので、イノシシを捕まえるのは特別な許可が必要であったり鹿を間違って捕まえないようにしたり、とても大変な作業になります。
イノシシは1回の出産で5頭以上産むことのある多産な動物です。栄養状態が良ければ爆発的に増えます。
これ以上イノシシが増えると鹿以上に大きな問題になる可能性があります。


■人と鹿との間の軋轢が生まれる

鹿と一緒に暮らし鹿を愛してきた宮島の島民ですが、様々な問題が起きていることで鹿に対する感覚が変わってきています。
平成23年に行われたアンケートでは、鹿の数は「今より少なくてよい」「いないほうが良い」という回答が約60%となっています。
また、鹿の被害を受けたという回答も約75%に登り、日常的に島民の方は鹿とのトラブルを抱えています。

解決方法は?

これらの問題を解決するには違反給餌をやめさせ、鹿と人との正しい距離を取り戻すしかありません。

人気の投稿