野生に生きる動物の”保護管理”とは


「宮島にいたあの鹿が怪我をしていた」「あの鹿が痩せていた」「あの鹿の姿を見なくなった」
鹿を愛する方からすると、鹿一頭一頭の様子が気になるのは当然だと思います。
しかし、飼育されていない野生に生きる動物を保護管理するためには、一見冷酷なようですが一頭一頭の鹿ではなく「個体群」として鹿を見る必要があります。
何故でしょうか?
宮島の鹿は3~4歳になると子どもを産めるようになります。
約30%が子どもを生める年齢のメスだと仮定すると、600頭の30%=180頭が出産可能なメスとなります。
宮島では大人のメスの概ね60~80%が妊娠出産するとされていますので60%で計算しても1年間に108頭が産まれている事になります。
宮島の鹿の寿命は15~20年だと言われていますので、寿命で死亡するのは30~36頭です。
寿命以外で死亡しない鹿がいなければ、毎年70頭以上増えていくことになります。
こんな増え方ではすぐに宮島がパンクしてしまいます。

そう、一定数の鹿が死ぬことで個体群の数が保たれているのです。
奈良公園でも生まれた子供の40%はその年に死んでしまいますし、10~20%の鹿は病気などが原因で死んでいます。
そうやって鹿の群れは維持されています。

目の前にもし死にそうな鹿がいたり、死んでしまった鹿がいたら誰でも悲しい気持ちになります。
しかし、自然界ではそのようにいろいろな理由で死んでしまう鹿がいることで成り立っています。
愛する鹿が死んでしまうことは悲しいことです。でもそれは自然な鹿の姿です。
死んでしまうことも鹿の正常なあり方だと理解いただき、宮島に住む鹿たちが一番幸せな姿が何かを考えていきましょう。
きっとそれは「目の前の鹿が可哀想だと思うから、とりあえず餌のようなものをあげる」という形とは違うはずです。

野生に住む鹿たちに対する「保護管理」とは、目の前の鹿を助ける事ではなく、島に住む鹿たち全体の事を考え、管理していくことなのです。

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