宮島の鹿は野生動物なのか


宮島の鹿問題でしばしば議論になるこの論点について整理したいと思います。

まず、結論から言うと「野生動物かどうかは判断ができません」

理由ははっきりしています。「野生動物」には一般化された明確な定義がないのです。

鳥獣保護管理法での野生動物

野生動物のことについて定められたと思われがちな「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(通称:鳥獣保護管理法)」においても野生動物についての定義はどこにも書かれていません。
狩猟鳥獣の種類について定めているだけです。

 

動物愛護管理法での野生動物

一方、それに対する法律「動物の愛護及び管理に関する法律(通称:動物愛護管理法)」ではどうでしょうか。
この法律では「愛護動物」ついて定義がされています。

”牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと、及びあひる
 前号に掲げるものを除くほか、人が専有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類”

つまり、牛や犬、猫などの他は、「人が専有している動物」を愛護動物と定めています。

その他、辞書などを調べてもそれぞれ表記が異なり一般化された定義が無いことがわかります。
ちなみに日本獣医師会の野生動物対策検討委員会においても野生動物の定義付けが必要との議論が出たことがあります。
http://nichiju.lin.gr.jp/conference/yaseidobutu/220419.pdf

総論的に言えば野生動物とは「現に人に飼養・占有されていない動物のこと」を言うのだと推測されます。

 

宮島の鹿は野生動物か

それでは宮島の鹿はどうでしょう。
確かに行政や住民から餌を与えられていた時期もあります。
しかし、それは果たして「人に飼養・占有されていた」状態であったと言えるでしょうか。
鹿1頭は年間約1トンの食物が必要です。それだけの量を与えて飼養・占有していたでしょうか。
また、近年行政が行っていた餌やりは飼養目的ではなく、市街の鹿を山に返す目的で行われていました。
現在餌やり禁止のガイドラインが定められて約10年が経ちます。宮島の鹿の平均寿命は約10年。山に返すために餌を与えられていた鹿も世代交代が行われ、ほぼ全ての鹿が現在は山中で自活しています。
現在餌として与えられるのは必要量の2%にも満たない違反投棄された餌だけです。
一般的に見て、現在の状況が飼養・占有されていると判断できないのは明らかです。

以上より、宮島の鹿は「野生動物である」可能性が高いと考えられます。

しかし、明確な定義が無い以上、野生動物であるかそうでないかの議論には意味がありません。
ましてや「野生動物」でないから「餌をあげないといけない」というのはイコールでは繋ぐことができません。


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